かわいい裏方さん(2025年9月29日)
日の短さに季節の移り変わりを感じます。夜にはスズムシの鳴き声が夏の終わりを伝えてくれています。日中はまだ暑さが残りますが、それでも、日差しの強さは和らいで来ました。“読書の秋”“食欲の秋”“芸術の秋”等と言われるように、五感でこの秋を楽しみたいと思います。
気の利く子
ある日の降園時間の事、“おむかえルーム”で、その日も、私が子供達に絵本を読み聞かせながらお家の方のお迎えを待っていました。年少組の一人の女の子が、「園長先生!トイレに行ってくる!」と言ったので「荷物を置いて行っておいで。そろそろお母さんがお迎えに来られるからね」と返すと、急いでトイレに向かって行きました。少しすると、その子のお母さんが迎えに来られました。
私は、荷物を渡そうと見回しましたが、見当たりませんでした。すると、隣に座っていた同じ年少組の女の子が、「さっき、私が、テラスに持って行っておいたよ。もうすぐママが来ると思って……そしたらここに戻らなくても、すぐに帰れるかなぁと思って」と言いました。なんと、気の利く子だろう!と驚きました。
誰に頼まれたわけでもなく、自分でそう思ってした行動だったのです。この年齢で、そんな事を考えられるという事に感心しました。おかげでトイレに行っていた女の子は、すぐにママと帰る事が出来たのです。その子は、そんな気遣いがあったことにも気づかず、帰って行きました。
荷物を置いてくれた女の子も、感謝される事を期待もせず、テラスから帰って行く友達の背中をチラッと見るだけでした。こうしたらあの子がママの所へ直ぐに帰る事ができるだろうと想像して起こした行動でした。
僕にできる事
昼食後にはデリバリー弁当の空容器を各クラスのお当番さんや先生から頼まれた子供達が、職員室まで運んで来てくれます。何人かで、運んでいる様子を見ていると、お弁当箱を入れるケースの両サイドを持つ人と間を持つ人でちょっとした騒ぎの中、張り切って運んでくれます。その中に入り切れなかった子供達は、どうしてもそのケースが持ちたくて「ちょっと寄ってよ~」「私も持ちたい!」と騒いでいる中、一人の男の子が、その列から外れて前を歩き、テラスに落ちているゴミを拾ったり、「お弁当が通りま~す、横に寄ってくださ~い」と誘導していました。そして、最後は、お弁当ケースがスムーズに職員室に入るように、ドアを開けて、サポートしてくれていました。
そのケースを直接持って運んだ子供達は実に満足そうでしたが、後ろの方でニコニコ静かに微笑んでいるその男の子は、お手伝いをする子達のサポートができた事に満足そうでした。
往々にして、そんな主役達に脚光を浴びせてしまいがちですが、表舞台に立つ人が立派な姿や結果を出せるのは、その裏で、大きな仕事をしてくれる人の存在は欠かせません。縁の下の力持ちがいてくれるおかげで、主役達は、安心して自分の持つ力を発揮できるのです。
主役を支える裏方業
幼稚園では、明日から「わんぱくチャレンジ」を学年別に3日間行います。毎年、年少組と年中組の「わんぱくチャレンジ」では、年長組の子供達が、プログラム毎に自分より小さな子供達のサポート役になってくれます。かけっこのトラックにコーンを置く・走り込んでくる子をゴールテープで迎える・競技で使うグッズをトラック内に運ぶ・持つ・応援する・アナウンスでプログラムを紹介する…等、その日の主役の活躍を裏方となり支えるのです。その裏方さんの存在のおかげで、小さな学年の子供達は安心してプログラムに挑む事ができるのです。
何人かで別れてサポートするので、その中でもリーダー役が出てきたり役割を先生に代わって友達に教えてあげたりする様子がみられます。頼もしい限りです。初めは、自分が何をして、それがどんな意味を持ち、どんな成果につながるのか──誰のために、どう役に立っているのか、わからないまま、与えられた役をこなしていくばかりでしたが、先生から具体的にその意味を説明してもらい実際に動いてみると、自分の裏方としての役割の必要性や、そのおかげでプログラムが楽しく進んでいく事を実感できると、張り切って裏方の役割を頑張ってくれるようになってきました。アナウンス役の子供達は、実況中継をしたり、ゴール手前では、「もうすぐゴールだよ!がんばって~!」と選手を励まし、転んでしまった時にはその場を見て「転んでも最後まで走って凄いよ~!」と気持ちのサポートをしてくれたりするようになりました。これらのサポートがあるおかげで、その日の主役であるちびっこ選手達は、より一層輝けるのです。その事を実感できた時に裏方の醍醐味と達成感を味わえるのです。
誰かのために、自分にできる事はないか?自分は今どう動き、言葉を発したらいいか?そうしたら、どうなるのか?を自分なりに状況を見て、考えて想像をして行動に移す──。ただ、指示を受けて言われた通りに動くのではなく、思慮深く動ける人は誰からも信頼を受けます。裏方の役割には、そんな魅力があるような気がします。こう考えると、俗にいう“お節介”も“出しゃばり”も、ある意味、気を利かせる行動の一つなのかもしれませんね。
気を利かせて行動する姿の中に思いやりの気持ちが育まれている事を感じます。頼もしい可愛い裏方さんなのです。
一つの事を成し遂げるためにそこに集う力のどれもが、欠かせない大切な力である事を 全ての子供達に光をあてて讃えたい気持ちでいっぱいです。
2025年10月27日 12:11 PM | カテゴリー:葉子えんちょうせんせいの部屋 | 投稿者名:えんちょう先生