“みんなで一緒に”の意味 2025年11月29日

今年は暑さを感じる時期が長く、11月になってからも朝は寒いが日中は暖かい──そんな日が続いていました。でも、さすがに12月の声を聞いて、ようやく…いえ、ついに、冬の寒さが身にしみるようになって来ました。気が付けばもう今年もあとわずかです。街を彩るイルミネーションに冬の到来を感じます。

「踊りた~い」気持ち

 今月中旬のある朝の事です。年少組の担任の先生が席を外している間、クラスに入っていた時でした。ある女の子が「ねぇ、園長先生、曲をかけて!」と言いました。「今度、先生がマラカスを配ってくれるんだよ」と言うので、なるほど、今度のメロディーチャレンジ(音楽発表会)にステージで踊る曲の事を言っているのだなと思い、そのクラスの曲のCDをかけました。前奏が始まると、あっという間にいつもお部屋で踊っている自分の立ち位置にそれぞれが立ちました。その姿から、練習を楽しんで頑張っている事がうかがえました。でも、まだみんなが踊れているわけではなく、覚えていないまま思い思いに身体を動かしている子もたくさんいました。私もその踊りを覚えていなかったので一緒に踊りたいと思い、お手本になる子を見つけようと見回しましたが、どの子を見れば正解なのかわからないほど(笑)、みんなそれぞれにリズムを感じて踊っていました。揃うのは途中に何度かあるかけ声だけでした。それでも子供達は友達と顔を見合わせて楽しそうでした。

 ひとつの曲に感じた思いを身体を使って表情いっぱいに表現する事、そこに実は“正解”なんてないのです。その曲に耳を傾け、そのリズムに合わせて自分の気持ちにぴったりはまる動きをする──音楽で自分の気持ちを表現する楽しさを知るのです。

そして、友達や先生と一緒に踊る事で、周りの人のダンスを見て刺激を受け、同じ気持ちの表現に共感しながら段々と一体感を楽しめるようになってきます。そして楽しさが何倍にも膨らんでいく事を実感し、子供達の自由な表現が、やがて“みんなで”の楽しさに繋がっていきます。

「1曲を味わう──“個”から“みんなで”」

 メロディーチャレンジには、年少組は踊り、年中組と年長組は合奏で、子供達のチャレンジを披露します。いつも、本番を終えた後、保護者の方から「いったいどんなふうに子供達に教えたらあんな演奏ができるんですか?」と子供達の演奏を聴いて、子供達の頑張りもさる事ながら、先生達の指導にも関心を寄せてくださいます。その手法はなかなか文章や言葉では言い尽くせません。ですが、言えるとしたら──子供達と先生達の努力や支え・応援・信頼等いろいろな絆によって形になった音楽を通した一つの成果だという事です。

 

 合奏は、たくさんの楽器でパート別の様々なメロディーを同時に演奏して出来上がります。最初、クラス毎で演奏する曲を聴き、その曲を自分達で演奏できる事を目標にして、子供達一人ひとりとパート別の練習を地道にやって行きます。「できる!できた!」という気持ちを引き出します。それから徐々に同じパート(楽器)をする子供達が数人集まってパート別の練習をします。時には補い合い、時には負けん気を出して切磋琢磨しながらパート演奏を楽しみます。自分本位ではなく、そこにも協調が必要な事に気付いていきます。そして自信が持てた頃、違うパートが集まり音を少しずつ重ねて、合奏につなげて行きます。更に、音の世界が広がります。

合奏してみるとそれぞれの音がその曲のイメージを豊かに表現している事に気付きます。友達が奏でるパートの音にも耳を傾け、難しいながらも、自分の中に取り込んでいく面白さを知ります。一曲に込められた思いや感情を「元気に」「風が爽やかに流れて行くように」「戦っているように」「優しい気持ちで」等とその情景を思い浮かべながら音で表現するのです。自分一人ではなく、みんなで曲を理解して同じ気持ちで曲を味わう──これこそ合奏の醍醐味だと思います。

「メロディーチャレンジが育てる力」

メロディーチャレンジでは、育てたいいろいろな力があります。踊りや合奏が上手にできる事が最終目的ではなく、この取り組みは、子供達の潜在意識の中にある社会性をより確かなものに変えて成長に結び付けて行くための経験の一つと考えます。“友達と仲良くする” “助け合う” “約束は守る” “がんばるって楽しい”…等をこの経験により実感するはずです。気持ちを伝え合う事、共感し合い認め合う事、一人では成し得ない事を目標に向かって共に頑張る事がどんなに大切かを確信するのです。

これまで、植えて来た「チャレンジ」という種が、これからの子供達の人生の中で生きるために発揮する様々な力となって芽を出し花を咲かせ実をつけてくれる事を願っています。

ここにこそ、「みんなで一緒に」何かに一生懸命取り組む事の大きな意義があるのだと、あらためて感じています。

 メロディーチャレンジでは、子供達が表現する音楽を保護者の皆様と一緒に味わいたいと思います。そして、子供達一人ひとりの頑張りどころを認め、どんな姿にも「ブラボー!」の拍手をおくってあげてください。それはきっと、子供達の心に大きな自信となって残ります。

子供の浪漫(ロマン)(2025年10月30日)

今年は秋の訪れが遅く、暦の上では秋なのに、服装は夏のまま…なかなか秋の気配を感じる事ができないでいました。しかし、ここに来て、急に身体がびっくりするような寒い朝を迎えるようになりました。いよいよ秋本番です。

紅葉する木々を眺め、おいしい自然の恵みをしっかりいただき、夢中になって楽しめる事をして、心と身体で秋を感じたいものです。

十五夜のお茶会「月にうさぎはいるか?」

さて、年長組の子供達が毎月経験しているお茶会での事です。毎月、その月や季節に合った掛け軸・香合・花を飾って季節の話に耳を傾けます。更に、自分達の身の回りにあるものに関心を示しお茶やお菓子を出したりいただいたりしながら、物を大切に扱う事や、相手に対して感謝や思いやりの気持ちを持ち、人との良い関係を築く心の育ちを期待しています。

今月は、十五夜にしつらえた中で満月の掛け軸を見ながらお茶の先生が、「お月様に何が見える?」と聞かれ、ほとんどの子が「うさぎ!うさぎがおもちつきしてる!」と答えました。「そうね。そう見えるよね。」と先生も共感してくださいました。そして、「月の中にうさぎがいるの?いると思う人!」と聞かれるとまたまた、ほとんどの子が「は~い」と手をあげました。中には、半信半疑の顔をした子や「お母さんがいないって言ってた」とか言う子もいましたが、ひとしきり話した後で、先生が「実はね、月へ行った人はいるんだけど、月でうさぎに会った人はまだいないのよ~。」と切り出されると、子供達は更に興味深く聞き、「この中に、宇宙飛行士になりたい人いる?もし、いたら月に行って確かめて来て欲しいの。」と言われて手をあげる子が数人いました。その中の一人の男の子が「わかった!じゃあ、僕が行ってうさぎに会って来る!そして、ついたお餅を食べさせてもらう!おかわりもたくさんしておみやげももらって帰って来る!」…………その子の話は止まらなくなりそうなくらい空想の世界が広がっていました。彼の頭の中には、うさぎと仲良くなった自分がしっかり見えていたのでしょう。浪漫を語るその子の笑顔がとても純粋で素敵でした。

うさぎはいないと思う

その中で、「私、うさぎはいないと思う。YouTubeで調べたもん。」とそっと私に教えてくれた女の子がいました。「えっ!じゃあどうして、うさぎに見えるの?」と私もまたこっそり聞き返すと「あれはね、……そう見えるだけなの」と少し戸惑いながらの返事でした。でも、うさぎが住んでいる話で盛り上がっている最中に大きな声で言えなかったのは、その場の空気を読んだのとYouTubeで調べたとしても、その女の子は納得しきれていなかったからでしょう。どこかで、やっぱりうさぎは存在するのでは?という浪漫を抱いていたのではないかと思うのです。

自分だけの世界は浪漫

子供達は、いつも浪漫を抱いています。実在しないアニメやキャラクターに憧れてヒーローごっこをしたり、着飾ってなりきって遊ぶ事も、段ボールや新聞紙、空き箱等いろいろな廃材を使って、家や街や自分だけの世界を作る事も、思い思いの絵を描いてその中に自分や友達や家族を登場させ想像する事も、これら全て子供の浪漫だと思うのです。

実際にはない話や存在しない人(?)生き物、また不可能な事でも子供達はその浪漫の中で想像を最大限に膨らませながら、頭や心の中ではあたかも現実かのように遊ぶのです。自分でつくる世界なのですから自由です。自由に考え、自由に楽しめるのです。

こんなに楽しくわくわくする事はありません。そうしながら、(もっとこうしたい)(こうしてみたらどうだろう)と世界とあそびと夢を深めようとします。子供達にとっては、大切な夢の世界です。その世界の中で、子供達は自由に想像し夢を追い求め自分らしい育ちをしていきます。

そんな子供の浪漫をそ~っと見守ってあげましょう。「そんな事あるわけないじゃん。それは間違いよ。」と、即、正解を求め現実に引き戻さないでください。大人目線で、その浪漫を否定されたり壊されたりすると、夢を見たり求めたりしながら育つはずの向上心にストップがかかります。子供達は、夢と現実の世界の狭間を行ったり来たりしながら大人になっていくのだと思うのです。私達大人もそうしながら今やっと現実に向き合って生きているのではないでしょうか?

浪漫を抱く子は自分らしい道を開く力を持っている……かも

月にうさぎがいるかいないか。いつかはきっと、本当に調べて真実を知りたい時が来ます。それまでは、うさぎがおもちつきをしてたくさんたくさん作ってくれて、宇宙飛行士になった時、たくさんご馳走になりたいと想像を膨らませながら、月を見あげてもいいじゃないですか。もしかしたら、そう言った男の子は、月にうさぎが存在するかどうかを確かめるために宇宙飛行士になる夢を追って勉強しようと思うかもしれない、本当にヒーローになりたくて自分の演技力を試そうと芸能界に興味を持つかもしれない、段ボールで秘密基地を作りながら本当の住み家を作るために建築家を夢見る子になるかもしれない。こうして子供の浪漫がその子の世界を広げ、いつか自分の生き方に影響していく事もあるのです。

子供達の自由な想像力と発想に共感して保障してあげる事で、未来への大きな夢に繋がって行くような気がします。そして、どんどん自分が決めた夢を成し遂げる子供達が育って行く───こんな想像もまた私達の浪漫です。