子供の浪漫(ロマン)(2025年10月30日)
今年は秋の訪れが遅く、暦の上では秋なのに、服装は夏のまま…なかなか秋の気配を感じる事ができないでいました。しかし、ここに来て、急に身体がびっくりするような寒い朝を迎えるようになりました。いよいよ秋本番です。
紅葉する木々を眺め、おいしい自然の恵みをしっかりいただき、夢中になって楽しめる事をして、心と身体で秋を感じたいものです。
十五夜のお茶会「月にうさぎはいるか?」
さて、年長組の子供達が毎月経験しているお茶会での事です。毎月、その月や季節に合った掛け軸・香合・花を飾って季節の話に耳を傾けます。更に、自分達の身の回りにあるものに関心を示しお茶やお菓子を出したりいただいたりしながら、物を大切に扱う事や、相手に対して感謝や思いやりの気持ちを持ち、人との良い関係を築く心の育ちを期待しています。
今月は、十五夜にしつらえた中で満月の掛け軸を見ながらお茶の先生が、「お月様に何が見える?」と聞かれ、ほとんどの子が「うさぎ!うさぎがおもちつきしてる!」と答えました。「そうね。そう見えるよね。」と先生も共感してくださいました。そして、「月の中にうさぎがいるの?いると思う人!」と聞かれるとまたまた、ほとんどの子が「は~い」と手をあげました。中には、半信半疑の顔をした子や「お母さんがいないって言ってた」とか言う子もいましたが、ひとしきり話した後で、先生が「実はね、月へ行った人はいるんだけど、月でうさぎに会った人はまだいないのよ~。」と切り出されると、子供達は更に興味深く聞き、「この中に、宇宙飛行士になりたい人いる?もし、いたら月に行って確かめて来て欲しいの。」と言われて手をあげる子が数人いました。その中の一人の男の子が「わかった!じゃあ、僕が行ってうさぎに会って来る!そして、ついたお餅を食べさせてもらう!おかわりもたくさんしておみやげももらって帰って来る!」…………その子の話は止まらなくなりそうなくらい空想の世界が広がっていました。彼の頭の中には、うさぎと仲良くなった自分がしっかり見えていたのでしょう。浪漫を語るその子の笑顔がとても純粋で素敵でした。
うさぎはいないと思う
その中で、「私、うさぎはいないと思う。YouTubeで調べたもん。」とそっと私に教えてくれた女の子がいました。「えっ!じゃあどうして、うさぎに見えるの?」と私もまたこっそり聞き返すと「あれはね、……そう見えるだけなの」と少し戸惑いながらの返事でした。でも、うさぎが住んでいる話で盛り上がっている最中に大きな声で言えなかったのは、その場の空気を読んだのとYouTubeで調べたとしても、その女の子は納得しきれていなかったからでしょう。どこかで、やっぱりうさぎは存在するのでは?という浪漫を抱いていたのではないかと思うのです。
自分だけの世界は浪漫
子供達は、いつも浪漫を抱いています。実在しないアニメやキャラクターに憧れてヒーローごっこをしたり、着飾ってなりきって遊ぶ事も、段ボールや新聞紙、空き箱等いろいろな廃材を使って、家や街や自分だけの世界を作る事も、思い思いの絵を描いてその中に自分や友達や家族を登場させ想像する事も、これら全て子供の浪漫だと思うのです。
実際にはない話や存在しない人(?)生き物、また不可能な事でも子供達はその浪漫の中で想像を最大限に膨らませながら、頭や心の中ではあたかも現実かのように遊ぶのです。自分でつくる世界なのですから自由です。自由に考え、自由に楽しめるのです。
こんなに楽しくわくわくする事はありません。そうしながら、(もっとこうしたい)(こうしてみたらどうだろう)と世界とあそびと夢を深めようとします。子供達にとっては、大切な夢の世界です。その世界の中で、子供達は自由に想像し夢を追い求め自分らしい育ちをしていきます。
そんな子供の浪漫をそ~っと見守ってあげましょう。「そんな事あるわけないじゃん。それは間違いよ。」と、即、正解を求め現実に引き戻さないでください。大人目線で、その浪漫を否定されたり壊されたりすると、夢を見たり求めたりしながら育つはずの向上心にストップがかかります。子供達は、夢と現実の世界の狭間を行ったり来たりしながら大人になっていくのだと思うのです。私達大人もそうしながら今やっと現実に向き合って生きているのではないでしょうか?
浪漫を抱く子は自分らしい道を開く力を持っている……かも
月にうさぎがいるかいないか。いつかはきっと、本当に調べて真実を知りたい時が来ます。それまでは、うさぎがおもちつきをしてたくさんたくさん作ってくれて、宇宙飛行士になった時、たくさんご馳走になりたいと想像を膨らませながら、月を見あげてもいいじゃないですか。もしかしたら、そう言った男の子は、月にうさぎが存在するかどうかを確かめるために宇宙飛行士になる夢を追って勉強しようと思うかもしれない、本当にヒーローになりたくて自分の演技力を試そうと芸能界に興味を持つかもしれない、段ボールで秘密基地を作りながら本当の住み家を作るために建築家を夢見る子になるかもしれない。こうして子供の浪漫がその子の世界を広げ、いつか自分の生き方に影響していく事もあるのです。
子供達の自由な想像力と発想に共感して保障してあげる事で、未来への大きな夢に繋がって行くような気がします。そして、どんどん自分が決めた夢を成し遂げる子供達が育って行く───こんな想像もまた私達の浪漫です。
2025年11月19日 7:10 PM | カテゴリー:葉子えんちょうせんせいの部屋 | 投稿者名:えんちょう先生